大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和56年(ラ)493号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は、「原決定を取消し、本件売却を許さない(抗告人からの別紙抗告書の「抗告の趣旨」中二に「右競落を」とあるも、これを売却と読みかえる。)」旨を申立て、その理由は同抗告書中「抗告の理由」欄記載のとおりである。

そこで、各抗告理由を順次検討する。

抗告理由の第一は、本件入札期日(前期抗告の理由中には競売期日通知とあるが、これを入札期日の趣旨と解する。)である昭和五六年四月一五日午後二時三〇分の期日が抗告人に対し通知がなされず売却手続きを進行して売却許可決定がなされたことは民事執行法七一条七号の事由に該当し違法であるというものである。

しかし本件記録によると、右入札期日は記録中に編綴の通知書控及び予納郵便切手保管袋中の記載から抗告人に対し昭和五六年三月一七日付で普通郵便により通知がなされていることが認められる。そうすると、第一の抗告理由は肯認できないこと明らかである。

抗告理由の第二は、本件売却物件の周辺宅地は、3.3平方メートル当り三〇万円を下まわることのない価値を有するにもかかわらず、本売却物件について、最低売却価額を一一三二万一〇〇〇円と定めたこと及び実際の売却価額が一四五〇万円と決定されたことは、いずれもその価額が不当に低廉なものであるので、右最低売却価額及び売却価額は民事執行法七一条六号に該当し違法であるというものである。しかしながら本件記録によれば、本件最低売却価額は、評価人の評価に基づいて定められたもの(同法六〇条一項参照)であり、また、売却価額が一四五〇万円と定められたことについても、それが不当に低廉な価額であることは何ら認められない。そうすると、第二の抗告理由も失当というべきものである。

抗告理由の第三は、本件競売を求める実体的な権利について、債権者は債務者及び連帯保証人松下義男から、有体動産の強制競売による債権の満足や利息を長期にわたつて徴していることにより、すでに債権者が本件競売申立において主張する債権は消滅したものであるから、本件売却許可決定は違法であるというものである。

しかしながら本件記録を精査しても、抗告人主張の弁済による債権の消滅について、それを証する資料は何ら認められない。

そうすると、第三の抗告理由も失当であるというべきである。

以上抗告理由はいずれもその理由がなく、その他記録を調査しても原決定を不許可にすべき事由はないので、本件抗告は理由なしとして棄却することとし、主文のとおり決定する。

(渡辺忠之 藤原康志 渡辺剛男)

抗告書〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例